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神戸地方裁判所 昭和54年(ワ)238号 判決 1982年1月28日

原告

西田久子

被告

垂水タクシー株式会社

主文

一  被告は、原告に対し、金三〇六万一二一七円及びこれに対する昭和五一年九月九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを九分し、その七を原告の負担とし、その二を被告の負担とする。

四  この判決は、原告の勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金一三九一万四二二三円及びこれに対する昭和五一年九月九日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

(一) 日時 昭和五一年九月八日午後一時二五分ころ

(二) 場所 明石市松が丘二丁目三番地先道路上

(三) 被告車 普通乗用車

運転者 訴外長尾正弘

(四) 原告車 自動二輪車(総排気量約九〇CC)(以下「原告単車」という。)

運転者 原告

(五) 事故の状況

被告車は、南北各二車線の道路を北向きから南向き車線へ転回しようとして、北向き車線を後方から北進して来た原告単車の左側面に衝突して、原告をその場に転倒させた。

(六) 傷害の内容

(1) 傷病名 左脛腓骨粉砕骨折(開放性)、左下腿屈筋挫滅、頭部外傷Ⅱ型、前額部打撲及び血腫頸部挫傷、右大後頭神経痛。

(2) 治療期間

<1> 昭和五一年九月八日から同五二年二月二八日まで(一七四日)朝霧病院に入院。

<2> 昭和五二年三月一日から同年八月三一日までの間、朝霧病院に通院八四日。

<3> 昭和五二年九月一日から同五三年四月一二日までの間、明石市民病院に四五日通院。

<4> 昭和五三年四月一三日から現在まで、ほとんど毎日明石市民病院に通院。

(3) 後遺症(昭和五三年四月一二日現在)

<1> 自覚症状又は主訴

頸部自発痛。運動痛。肩こり症状が強い。時々右上肢にしびれ感あり。頭痛、目のチカチカする症状あり。左膝に関しては強い左膝関節痛、跛行運動痛。左下腿前面創部にも疼痛あり。正座不能、長距離歩行困難。歩行には杖を要し、用便、階段の昇降等に苦痛がある。

<2> 他覚症状及び検査結果

頸椎の運動制限。両側頸筋群の緊張強く、頸筋内に圧痛あり。レ線上頸椎には骨折等は認めないが、椎間板の変性を認める。

左膝はレ線上骨癒合は完了。しかし、左膝関節面の変形が残り、疼痛・可動域制限の原因と考えられる。左大腿周径四七センチ、右五〇センチ。左下腿周径三八・二センチ、右三八センチ。左下腿にはなお腫脹が認められ、創周辺に知覚過敏を認める。

<3> 原告の後遺症は、自賠責等級九級に該当する。

2  責任原因

被告は、被告車を所有し、自己のために運行の用に供していたものである。

3  損害

(一) 療養費 金四四九万八七六八円

(1) 治療費 金三八四万九三六八円

朝霧病院(原告立替分)金一二万二九二〇円

右同(被告が直接支払つたと主張する分) 金三六一万五九七五円

明石市民病院(国保、被保険者負担分) 金一〇万五九二四円

玉津福祉センター 金五四九円

日向義肢製作所 金四〇〇〇円

(2) 付添看護費(原告立替分)、 金一八万七五五〇円

昭和五二年二月一日から同年同月二八日まで

(3) 交通費 金三六万一四一〇円

昭和五二年三月一日から同五三年四月一二日まで

(4) 入院雑費 金一〇万四四〇〇円

入院一七四日 一日六〇〇円

(二) 得べかりし利益 金六六一万五四五五円

(1) 休業による損害 金三一一万〇四七一円

<1> 休業期間 昭和五一年九月八日から同五三年四月一二日まで五八二日

<2> 収入 ゴム靴販売業 年収一九五万〇七二五円

<3> 算式 1.950.725円×582/365=3.110.471円

(2) 後遺症による逸失利益 金三五〇万四九八四円

<1> 労働能力喪失率 三五パーセント

<2> 喪失期間 六年

<3> 年収 金一九五万五七二五円

<4> 算式1.950.725円×35/100×5.1336(6年のホフマン係数)=3.504.984円

(三) 慰藉料 金五六四万円

後遺症慰藉料 金三一四万円

入・通院慰藉料 金二五〇万円

(四) 損害のてん補 金四〇二万円

(1) 被告からの受領金 金一〇万円

(2) 自賠責保険後遺症補償費 金三九二万円

(五) 弁護士費用 金一二六万円

4  よつて、請求の趣旨記載のとおりの判決を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1のうち、(一)ないし(四)は認める。(五)は争う。(六)は知らない。

2  同2の事実は認める。

3  同3の事実は知らない。

三  抗弁

1  過失相殺

被告車は、現場南北各二車線道路の北向き左側車線左端に停車していたところ、南向き車線に転回すべく方向指示器を出してまさに転回を始めようとしたところに、同じく北向き左側車線を走行してきた原告単車が衝突したものである。

被告車は、まさに動きかけであつて、速度は全くといつてよい程出ておらず、停車位置から衝突までは三〇センチと動いていなかつた。当時は降雨中であり、雨ガツパの頭巾を深くかぶつて単車で時速三〇キロ以上で走行していた原告の前方不注視が事故原因と思料する。

本件事故態様は、原告単車の追越中の衝突ないしは原告単車の追突とも比すべき事案である。したがつて、原告の過失割合は、少なくとも三〇パーセント以上とされるべきである。

2  損益相殺

被告の支出ずみ損害賠償金は、次のとおりである。

(一) 原告への支払 金一〇万円

(二) 自賠責保険金(原告への支払分)金三九五万三三三〇円

(三) 被告支払看護料 金一〇三万五七〇〇円

(四) 朝霧病院治療費 金三六一万五九七五円

合計 金八七〇万五〇〇五円

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1は争う。

2  抗弁2のうち、

(一)は認める。

(二)のうち金三九二万円を認める。

(三)のうち金一六万九四〇〇円は原告が支払つたものである。その余は知らない。

(四)は知らない。

第三証拠〔略〕

理由

一  事故の発生

請求原因1のうち(一)ないし(四)の事実は、当事者間に争いがない。

二  被告の責任

請求原因2の事実は、当事者間に争いがなく、被告は、免責の抗弁を提出しないので、被告は、本件事故によつて生じた原告の損害につき賠償責任を免れない。

三  過失相殺の抗弁について

1  いずれも成立に争いのない甲第一七、第二一号証、乙第一号証、証人藤島理弘、同長尾正弘の各証言及び原告本人尋問の結果(第一回)(ただしこれらのうち後記採用しない部分を除く。)を総合すると、本件事故の態様は次のとおりと認められる。

長尾正弘は、被告車を運転し、南北各二車線道路の北向左側車線に停車して乗客を降車せしめた後、南向き車線に転回すべく、方向指示器を出して発進し、転回を開始した。一方、原告は、原告単車を運転して、時速三〇キロメートル位で被告車の右側を通り抜けようとしたところ、被告車が前記のとおり発進転回しようとしたので、原告単車の左側面部に被告車の右前部が衝突し、原告単車は転倒した。

長尾は、軽回するにあたつては後方の安全を十分確認して発進すべきであつたのに、これを怠り、当時は相当激しい降雨で後方が見にくかつたとはいえ、右後方を十分確認せずに転回しようとした点において相当の過失があり、ことに被告車の側面に原告単車の前部が衝突したのではなく、原告単車の側面に被告車の右前部が衝突している点に徴すると、長尾の過失は多大であるが、原告も停車車両のわきを追い抜くにあたりその動向に対する注意が欠けていた点において、若干の過失がある。

以上の事実が認められる。

原告本人(第一回)は、被告車との間の距離を十分にあけて、第二車線の中央付近を通過したと供述するが、前掲乙第一号証に照らすと、右乙第一号証のとおりであつたかはともかく、この点の原告本人の供述を全面的に採用することはできない。その他前掲各証拠のうち右認定に反する部分は採用せず、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

2  右認定の事実によつてみると、長尾の過失を九五パーセント、原告のそれを五パーセントとすべきである。

四  原告の傷害、治療経過及び後遺障害

1  傷害

いずれも、成立に争いのない甲第一号証、乙第二、第四号証、原告本人尋問の結果(第一回)及びこれによつて真正に成立したものと認められる甲第二、第三号証によれば、原告が本件事故により請求原因1(六)(1)の傷害を負つたことが認められ、これに反する証拠はない。

2  治療期間

前顕甲第一ないし第三号証、原告本人尋問の結果(第一回)及びこれによつて真正に成立したものと認められる甲第四号証の一ないし八、同第七号証の一、二、前同様の理由によつて真正な公文書と推定すべき甲第八号証の一ないし一三八によれば、原告が次のとおり治療を受けたことが認められ、これに反する証拠はない。

(一)  昭和五一年九月八日から同五二年二月二八日まで(一七四日)朝霧病院(明石市)に入院。

(二)  昭和五二年三月一日から同年八月三一日までの間、朝霧病院に八四日通院し、この時点で一旦症状固定と診断された。

同年九月一日から同五三年七月まで(実治療日数不明)朝霧病院に通院。

(三)  その間、昭和五三年三月一〇日から同年四月一二日までの間、明石市民病院に二五日通院し、この時点で同病院で再び症状固定と診断された。

その後ひき続き同年四月一三日から同年一〇月二三日まで同病院に一一二日通院し、その後も同病院に通院している。

(四)  なお、この間、昭和五三年二月二五日及び同年三月九日の両日、玉津福祉センターで診療を受けた。

3  後遺障害

前掲甲第一ないし第三号証及び原告本人尋問の結果(第一回)並びに弁論の全趣旨によれば、原告は、昭和五二年八月三一月に症状固定として朝霧病院(横山医師)でその旨の診断書の発行を受けたが、それだけでは不十分として朝霧病院において原告の手術を担当した栗田医師の後遺障害診断書を得たこと、しかしなお症状が改善されず、また右の各診断内容を不満として、その後も朝霧病院及び明石市民病院に通院して治療を受け、昭和五三年四月一二日症状固定として三度目の後遺障害診断書の発行を得たことが認められ、これに反する証拠はない。

そして、前顕甲第一ないし第三号証及び証人大浦五郎の証言によると、原告にはおおむね請求原因1(六)(3)のとおりの後遺障害が存すると認められる。

もつとも、そのうち最も重篤と考えられる左膝の屈曲制限は、明石市民病院の診断では、自動、他動とも五〇度とされているが、それ以前の朝霧病院における診断書では一〇〇度ないし一一〇度、あるいは九六度とされ、また明石市民病院でもその後の診断では一一〇度となつていること(正常は約一三〇度)が認められ、これを左右するに足る証拠はない。

したがつて、原告の症状のうち、左膝関節の機能障害は「著しい機能障害」とすることはできず、したがつてまた自賠法施行令別表九級に該当するとするのは相当でない。

しかしながら、原告には、<1>左膝関節の機能障害(屈曲約一一〇度)、<2>左足首の機能制限、<3>頸椎の運動制限(さして重篤とは見えない)。、<4>局部(頸椎及び左膝を中心とする。)の頑固な神経症状等の後遺障害が残存するというべきであるから、これらを総合してみると、およそ自賠法施行令別表の一一級に該当するものというべきである。

五  損害

1  療養関係費 金五一六万〇〇九二円

(一)  治療費 金三七四万九九九二円

(1) 朝霧病院(原告支払分) 金一〇万五八二〇円

原告本人尋問の結果とこれによつて真正に成立したものと認められる甲第五号証の一ないし六によると、原告が朝霧病院における昭和五一年九月二七日から昭和五二年二月二八日まで(入院中)の治療費のうち金六万六九七〇円を支払つたことが認められ、これに反する証拠はなく、前認定の事実に照らすと、右は本件事故と相当因果関係にある損害と認められる。

また、前顕甲第四号証の一ないし八によると、原告が朝霧病院における昭和五二年九月一日から昭和五三年七月末日までの治療費及び診断書料として合計金五万五九五〇円を支払つたことが認められ、これに反する証拠はない。右のうち、昭和五三年二月までの分及び診断書料(合計金三万八八五〇円)は、同年八月三一日に一旦症状固定とされた後の分ではあるが、なお、本件事故による傷害の治療として必要な出費と認めるのが相当である。しかしながら、昭和五三年三月以降の分(金一万七一〇〇円)は、明石市民病院の治療と重複し、これを本件事故によるものとして被告に負担せしめるのは相当でないとすべきである。

したがつて、朝霧病院の原告支払分のうち合計金一〇万五八二〇円を相当損害と認める。

(2) 朝霧病院(被告支払分) 金三六一万五九七五円

被告は、被告が右金員を朝霧病院に支払つたと主張し、原告は、右金員を被告が現実に支払つたことは知らないと述べつつも、右金員を損害として計上しているので、原告の治療のため右の金員を要したこと自体は当事者間に争いがないとすべきであり、前認定の事実に照らすと、右も本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。

(3) 明石市民病院 金二万三六四八円

前顕甲第八号証の一ないし一三八によれば、原告が明石市民病院には治療費として合計金一〇万五九二四円を支払つたことが認められる。ところで、原告は前認定のとおり二度にわたつて症状固定と診断されているのであるから、少くとも二度目に症状固定とされた昭和五三年四月一二日より後の治療費は相当性を欠くものとするのが妥当であり、右時点までの分金二万三六四八円のみを相当損害と認める。

(4) 玉津福祉センター 金五四九円

前認定のとおり、原告は昭和五三年二月二五日及び同年三月九日の両日玉津福祉センターで診療を受けているが、前顕甲第七号証の一、二によれば、このため合計金五四九円を支払つたことが認められ、これに反する証拠はない。右は、朝霧病院及び明石市民病院通院期間中におけるものであるが、同病院の性質や通院回数及び金額が少ないことに照らすと、右金員は相当なものと認めてさしつかえない。

(5) 松葉杖の代金 金四〇〇〇円

原告本人尋問の結果(第一回)とこれによつて真正に成立したものと認められる甲第六号証によると、原告が退院後松葉杖を使用したこと、その代金四〇〇〇円を負担したことが認められ、これに反する証拠はなく、右は本件事故により必要・相当なものと認める。

(6) 以上の合計は、金三七四万九九九二円

(二)  付添看護費 金一〇三万五七〇〇円

いずれも成立に争いのない乙第七ないし第一〇、第一三、第一四号証及び弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる乙第一一、第一二、第一五ないし第三二号証によれば、原告が朝霧病院に入院中、家政婦による付添看護を受け、その費用として合計金一〇三万五七〇〇円を要したことが認められ、これに反する証拠はない。

そして、成立に争いのない乙第二号証によれば、右のうち昭和五二年一月までの分は、付添看護の必要があつたことが明らかであり、同年二月の分はこれを必要とする診断書は存しないが(不要との診断もなされていない。)、前認定の治療経過に原告本人尋問の結果(第一回)を総合すると、右二月分もやむをえないものと認めるのが相当である。

また、前顕乙第一一、第一二、第一五ないし第三二号証及び弁論の全趣旨によれば、前記看護料のうち昭和五二年一月までの分は被告が代位弁済したものと認められ、これに反する証拠はない。同年二月分については、原告は、原告が金一八万七五五〇円を支払つたと主張し、原告本人尋問の結果(第二回)によつて真正に成立したと認められる甲第二七号証の一(原告作成のメモ)中には、家政婦代金一六万九四〇〇円、その食費二七日分金二万七〇〇〇円となるメモ書きが存し、また原告本人は、領収証はもらつたが、賠償請求の仲介を頼んだ大島正信に渡したまま返還を受けていないと供述するのであるが(第二回)、前顕乙第七ないし第一〇、第一三、第一四号証及び弁論の全趣旨によれば、右二月分(合計金一六万九四〇〇円)についても請求書及び領収証は被告が所持していることが明らかであり、原告が右二月分のみについてメモをしていること、メモの金額が領収証の金額と一致していること、他の領収証は被告宛になつているのに二月分のみ原告宛となつていることに照らすと、原告本人の供述するとおりと考えられなくもないが、なお、右の限度では原告が支払つたものとの証明が十分とはいえず、被告が領収証を所持している以上、むしろ二月分も被告が支払つたものと認むべきである。

(三)  交通費 金二七万円

原告は、退院直後の昭和五二年三月一日から症状固定(第二次)の昭和五三年四月一二日まで交通費(タクシー代)として金三六万一四一〇円を要したと主張し、成立に争いのない甲第二五号証(原告側作成の請求書)、原告本人尋問の結果(第二回)及びこれによつて真正に成立したと認められる甲第二七号証の二ないし六(原告作成のメモ)中には、原告主張に副う供述ないし記載がある。また、右のうち昭和五二年の三月五日から一五日までの分についてのみタクシー運転手が証明したと見られるメモ書(甲第二六号証の一ないし三八)が提出されているが、その余の分については右のような証明のメモが存するのか判然とせず、また右甲二六号証の成立に関する原告本人の供述(第二回)もあいまいな部分があり、果して真正な証明書とみうるかについては疑問がないとはいえない。しかし、原告が自宅と明石市内の病院、店舗などの間に使用した額としては特に不当とする程の金額でもなく、全く虚構の数額を計上したとも見られないから、右の期間おおむね原告主張のタクシー代を要したと認めるのが相当である。

しかしながら、その相当性についてみるのに、退院直後においてはタクシーの利用もやむをえなかつたとしても、その症状は漸次軽快していつたと認められ、また、原告の後遺障害は前認定の如きものであつたから、タクシー利用の必要性・相当性も漸次減少していつたものとみるのが相当である。この点につき原告本人(第二回)は、被告の関係者がタクシーの利用を勧めた旨供述するが、仮にそうとしても、前記金額のすべてを被告に負担せしめるのは妥当でなく、前記金員のうちその約四分の三にあたる金二七万円をもつて本件事故と相当因果関係あるものとして、被告に負担せしむべきものと思料する。

(四)  入院雑費 金一〇万四四〇〇円

原告主張のとおり入院一七四日、一日六〇〇円として、合計金一〇万四四〇〇円を相当と認める。

(五)  小計 金五一六万〇〇九二円

2  逸失利益 金二九三万〇六三七円

(一)  休業損害 金一四四万六〇〇〇円

(1) 事故前の原告の収入について

原告本人尋問の結果(第一回)によると、原告は、事故前明石市内において靴の小売商を営んでいたことが認められ、これに反する証拠はない。

原告は、収入の資料として甲第九号証の一ないし八七(売上台帳)を提出し、これによると、昭和五〇年一月から一二月までの総売上が金五七三万三一五〇円、これから仕入代金を引いた実利益が金一九五万〇七二五円と記載されている。

ところで、証人大島正信の証言によると、原告は、本件事故に基づく示談交渉において原告の代理をしてきた大島に対し、当初、右甲第九号証と別の帳簿を持参したが、右帳簿には甲第九号証の数額より相当少ない数額が計上されていたので、大島が、「数字をふくらました方がよい」旨を示唆すると、右帳簿に代えて持参したのが甲第九号証であるというのであり、この点につき、原告本人は、国民健康保険料の算定を有利にするために二重帳簿をつけていたものであり、甲第九号証が真実の数字を記載したものであると供述している(第一回)。その真偽のほどは定かでないが、原告本人の右供述をあながち虚偽ともきめつけ難い。

ところで、右甲九号証中の前記金一九五万〇七二五円を利益とするとしても、更にこれから店の経営に関する経費を控除すべきところ、原告本人の供述によるもその数額を明らかにすることはできない。

そこで、原告の収入としては、賃金センサスにより、昭和五一年における四八歳の女子の平均賃金一四四万六〇〇〇円をもつて、その収入とするのほかはない。

(2) 休業期間

原告は、事故後、症状固定(第二次)の昭和五三年四月一二日まで、完全に休業したと主張し、原告本人(第一、二回)は、これに副う供述をしているが(もつとも前後矛盾がある。)、証人井筒義朗の証言では、原告は退院後間もないころから営業をしていたというのである。

原告本人の供述にもあいまいさがあり、前顕甲第二六号証に照らしても、原告が退院直後ころから明石市(本町)の店舗に出かけていたことが窺われるから、原告は退院後比較的早い時点から営業を再開していたと認めるのが妥当である。しかし、他方、前認定のとおり、原告は退院後も相当頻繁に病院に通つており、またその病状からして十分な営業ができなかつたこともまた明らかである。

これらの点を考慮すると、原告主帳のうち一年分をもつて休業期間とするのが相当である。

(3) 休業損害

そうすると、休業損害は、金一四四万六〇〇〇円である。

(二)  将来の逸失利益 金一四八万四六三七円

前認定の後遺障害の程度に照らすと、原告は、労働能力を二〇パーセント喪失したものと認むべく、その期間は、右症状は単なるむちうち症や神経症状にとどまらないから、少くも原告の主張する六年間は存続するものと認められる。

そうすると、将来の逸失利益は左のとおり金一四八万四六三七円と算出される。

1,446,000×0.2×5.1336≒1,484,637(円未満切捨)

(三) 小計 金二九三万〇六三七円

3  慰藉料 金四〇〇万円

本件事故により原告が相当の精神的苦痛を受けたことは明らかであり、傷害の程度(重傷というべきである。)、入・通院の期間、後遺障害の内容・程度その他本件に現れた諸事情を考慮すると、慰藉料としては金四〇〇万円をもつて相当と認める。

4  過失相殺

以上を合計すると、損害総額は金一二〇九万〇七二九円となるが、原告には前記の過失があるので、これを斟酌し、その九五パーセントに当たる金一一四八万六一九二円(円未満切捨)をもつて、原告の請求しうべき金額とする。

5  損害の填補 金八七〇万四九七五円

(一)  被告支払 金一〇万円

被告が原告に金一〇万円を支払つたことは、当事者間に争いがない。

(二)  自賠責保険金 金三九五万三三〇〇円

成立に争いのない乙第六号証によれば、自賠責保険から原告に合計金三九五万三三〇〇円が支払われたことが認められ、これに反する証拠はない(右のうち金三九二万円の支払については、当事者間に争いがない。)。

(三)  看護料 金一〇三万五七〇〇円

前認定のとおり、被告は、原告の付添看護料として右金額を直接支払つたと認められる。

(四)  朝霧病院治療費 金三六一万五九七五円

成立に争いのない乙第三、第五号証によれば、被告が右金員を支払つたことが認められ、これに反する証拠はない。

(五)  以上を合計すると填補総額は金八七〇万四九七五円であり、これを控除すると金二七八万一二一七円となる。

6  弁護士費用 金二八万円

本件訴訟の難易、認容類その他本件に現れた諸般の事情を考慮すると、弁護士費用は金二八万円をもつて相当と認める。

7  合計 金三〇六万一二一七円

六  結論

以上のとおりであるから、被告は、原告に対し、不法行為に基づく損害賠償として、金三〇六万一二一七円及びこれに対する不法行為の後(翌日)である昭和五一年九月九日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うべきものである。

よつて、原告の本訴請求は右の限度で理由があるから、これを認容し、その余は理由がないので、これを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 岩井俊)

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